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奈良地方裁判所葛城支部 昭和48年(わ)42号 判決 1973年11月13日

主文

被告人を懲役一年六月および罰金二万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金千円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。押収してある自動車検査証一通(昭和四八年押一七号の二)の変造部分を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一昭和四八年四月一五日午前零時三〇分ごろ、奈良県北葛城郡広陵町大字南郷五四〇番地先の空地において、同所に駐車していた中谷孝信所有の普通乗用自動車(奈五五な六八八一号)一台(時価七〇万円)を窃取し、

第二同月二二日午後二時ごろ、大阪市城東区今福中四丁目二〇番地大阪府営住宅三棟一〇五号塚本八郎方前路上において、「奈五五さ八六九九号」の自動車登録番号標二枚(昭和四八年押一七号の一)を、同番号により登録をうけた自動車でない前記普通乗用自動車(車台番号KHC一三〇〇一一一〇号)の前部および後部に各一枚ずつ取り付けて同日から同年五月一八日まで大阪府内および奈良県内で同車を運転し、もつて当該自動車以外の自動車に自動車登録番号標を使用し、

第三前記第一記載の窃取事実の発覚を防止するため窃取自動車の自動車検査証を変造しようと企て、同年四月二二日午後二時三〇分ごろ、前記塚本八郎方において、行使の目的で、ほしいままに、前記車両に備え付けてあつた奈良県知事交付にかかる自動車検査証(昭和四七年一一月二五日付、番号〇〇〇四二号、所有者ナカタニタカノブ。作成名義人の表示と認められる最上部右端には、黒色で横書に「知事」の文字が印刷され、これと重ねて朱色で「公印省略」の印影が印刷され、右「知事」の記載の左側に横書に「ナラケン」と印字されているもの。)中、「自動車登録番号又は車両番号」欄に記載してあつた「ナ六八八一」(横書、数字はアラビア数字)の部分を水につけて消し、同部分に黒のボールペンを使用して「サ八六九九」(横書、数字はアラビア数字)と記入し、もつて同知事の署名のある同知事作成名義の公文書一通(昭和四八年押一七号の二)を変造し、

たものである。

(証拠の標目)<略>

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は刑法二三五条に、同第二の所為は道路運送車両法一〇九条一項一号、九八条三項に、同第三の所為は刑法一五五条二項にそれぞれ該当するが、以上は同法四五条前段の併合罪なので、判示第一および同第三の罪の懲役刑については同法四七条本文、一〇条により重い同第三の罪の刑に法定の加重をし、同第二の罪の罰金刑については同法四八条一項本文によりこれを右懲役刑と併料することとし、その刑期および所定金額の範囲内で被告人を懲役一年六月および罰金二万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、同法一八条により金千円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することと、情状により同法二五条一項一号に従いこの裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとし、押収してある自動車検査証一通(昭和四八年押一七号の二)変造部分は判示第三の所為より生じた物で、禁制物としてなんぴとの所有をも許さないものであるから、同法一九条一項三号、二項本文により右変造部分を没収する。

なお、本件自動車検査証は、その体裁および内容に徴し、道路運送車両法六〇条、一〇五条二項、同法施行令八条二項に基づいて奈良県知事が昭和四五年二月二〇日運輸省令第八号所定の様式により作成交付したものであると認められ、その作成名義人の表示方法は前示のごとくであるところ、判示「公印省略」の印影は、右省令五条にのつとり知事の公印を押捺しない旨を示す記載であるにとどまり、奈良県知事の人格を表彰し、あるいはその同一性を表示すべき印影であるとは認められず、他に同知事の押印と解すべき印影ないし記載も存しないから、本件自動車検査証は同知事の捺印した公文書ということができないであるが、判示「ナラケン」の記載が「奈良県」をあらわすことは容易に認識でき、「知事」の記載とあわせて、奈良県知事が作成名義人として表示されていることは明らかであり、また、その記載は前示のとおり自署でなく印字、印刷によつてなされた記名であるけれども刑法一五五条にいう「署名」が記名を除外するものと解しなければならない理由はなく、かつ、奈良県知事が同時に二人以上存することはありえないから同知事たる自然人の氏名の表示のないことは前示記載が特定の公務員を指称するものであることの妨げとならないのであつて、結局、右記載は同知事の署名であるということができ、したがつて本件自動車検査証は、判示のとおり、刑法一五五条二項にいう公務員の署名した文書にあたるものと解するのが相当である。

よつて主文のとおり判決する。

(田尾勇 谷口伸夫 柳澤昇)

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